歴史的な物価高・人手不足、広がる賃上げの動き でも中小企業は…苦しい胸の内

image

 春闘が始まり各社で交渉が本格化する中、鹿児島県内でも賃上げの動きが広がっている。歴史的な物価高に人手不足も加わり、今年は労使とも賃上げの必要性の認識は一致する。一方、原材料費などの高騰分の価格転嫁が不十分な中小企業は少なくなく、経営者は苦しい選択を迫られている。
 鹿児島銀行が9日に方針を発表した5%以上の賃上げ幅は、高度経済成長期を除き最大級という。碇山浩美専務は「過去10年程度の実質賃金を計算した結果、目減りしている部分もあった」と述べ、物価高が主な理由だとした。
 鹿児島市の生鮮食品を除く消費者物価指数は昨年12月、前年同月比で3.8%上昇した。約41年ぶりの高水準となり、家計の負担感は増している。連合鹿児島が5%の賃上げを目指す春闘方針を掲げるなど、生活防衛へ労働者の訴えは熱を帯びる。
 政府の呼びかけもあり、企業側も前向きな反応を示す。半導体分野が好調な精密切削加工のマルマエ(出水市)は「従業員の頑張りに報いたい。ベアも検討している」(担当者)。鹿児島市の建設大手も「世間の流れに沿う」と、2年連続のベアに踏み切る見込み。社会経済活動の再開で人手不足が深刻化し、待遇による争奪戦になりつつあることも一因とみられる。
 ただ、中小企業の懐は厳しい。大同生命保険が昨年12月に県内174社に実施した調査では、賃上げ済みや今後予定する企業の割合は28.7%で全国37位。特に小規模事業者ほど割合が低かった。
 さつま揚げ製造の南海食品(同市)の渕本逸雄会長は「今年も賃上げを考えられる状態にない」と苦しい胸中を明かす。年1度の昇給を、昨年も見送った。コロナ禍で観光客は激減し、この3年間で原材料費や包装材は高騰した。「ようやく観光業界に明るい兆しが見えてきたところ。早く以前のような状態に戻せるよう努力する」と語る。
 「仕入れ先からは値上げを通告され、販売先からは価格転嫁を渋られて板挟みの状況」と漏らすのは、同市の食材卸業者。定期昇給はするが、ベアは予定していない。「この先何が起こるか分からない。値上げできる環境が定着してからベアを考えたい」とため息をついた。

コメント