鹿児島県内の“買い物弱者”その現状と支援の取り組みは

毎日の生活に買い物は欠かせません。しかし「近くに店がない」「移動手段がない」といった理由で、いわゆる”買い物弱者”となる人が鹿児島県内でも増えています。
県が初めて行った調査で、買い物弱者となるリスクが高い人は実に14万人に上るとされる中、将来に不安を抱える人や買い物弱者を支える人の今を取材しました。
「運行予定が変更されました。前後の運行を確認してください」車内にこんな自動音声が流れるのは、鹿児島市が民間と共同で運行を始めた「チョイソコかごしま」。決まった路線や時刻表はなくAI(人工知能)が利用者の予約に応じてルートを決めるという、バスとタクシーの特徴を兼ね備えた乗り合い送迎サービスです。
鹿児島市・下鶴隆央市長はお披露目式で「地域の皆さんが買い物や通院などに利用される生活交通を維持、確保することは大変重要」とあいさつしました。
公共交通が不便とされる谷山地域で、11月から実証実験が始まった「チョイソコかごしま」。買い物弱者への支援策として期待されています。
“買い物弱者”という言葉の定義。経済産業省は「交通網の弱体化とともに買い物が困難な状況の人々」と位置づけています。
2023年9月、”買い物弱者”の現状を洗い出そうと、県が初めて行った調査の結果をまとめた「買い物アクセスマップ」が好評されました。
マップには買い物弱者へのリスクが高いとされる場所が赤いのメッシュで表示されています。500m四方の範囲で、65歳以上の高齢者が50%以上を占め、小売店舗が1軒以下の地域です。地方の山間部や離島などで多くみられ、この地域に住む人の数は県内人口の約1割、実に14万人に上ります。

買い物が困難な地域に住む人の生活はどうなっているのか?
南さつま市坊津町の平崎地区を取材しました。

ここに暮らすのは児玉正俊さんと妻のたまみさんの2人だけ。かつては4世帯が住んでいましたが2015年に地滑りの恐れがあるとして、約2カ月半にわたり避難指示が出され、これをきっかけに平崎地区を離れたそうです。
児玉正俊さん
「とにかく店がないという事は弱点です」
2人だけの集落に店はなく、買い物は車で細い林道が続く山を越えることも。
この日は20分ほどかけて隣町のスーパーへ。
児玉さん夫婦
「きょうは鍋にしようかな」
毎日出かけるわけにもいかず、まとめ買いやほかの用事と合わせるなど工夫しているそうです。
現在正俊さんは69歳、たまみさんは66歳、2人の先行きの不安は・・・。
児玉正俊さん
「2人とも運転ができなくなった状況を思うと、やはり考えますよね」
児玉さん夫婦の家には週1回、JA南さつまの移動販売車が訪れます。
「氷砂糖ある?」
「持ってるよ」
気になる免許返納後のことも考えて、積極的な利用を心掛けています。
児玉たまみさん
「1軒しかないのにねえ。この人たちも大変よ。こんなに出さなくてもいいのに」
自然の豊かさが好きで、平崎地区に暮らし続ける2人。今は車で買い物ができますが、店舗のない不安を少しずつ感じ始めています。
一方、買い物弱者の支えになればと、2023年6月から個人で移動販売を始めた人が指宿市にいます。
山元成之さんです。
「地域の店、近くのスーパー、コンビニさえも行けなくて、困っている人がいっぱいいると思ったから」という山元さんはこの春、指宿市役所を定年退職しました。そして実家の商店を引き継ぎ、軽ワゴン車で買い物に困っている人の家を個別訪問するサービスを始めたのです。
「正和。こんにちは。(入って)よかけ? 来たよ」
「ありがとう」
訪れたのは。ひとり暮らしの同級生、小野正和さんの家。車いす生活で外出もままならない小野さん。単に物を届けるだけでなく、選ぶ楽しみを感じてほしいと、山元さんはリクエストよりも多くの商品を玄関先に並べます。
小野正和さん
「もうありがたいですよ。こうして見るのが楽しい。こういうのが欲しいと思えば持ってきてくれるし」
料金はガソリン代の経費として1商品につき10円をプラスするだけ。
山元成之さん
「店がどんどん減りました。本当に困っている人が多いと思う。なかなか品ぞろえもスーパーのようにはないが、そこは機動力でカバーして、玄関まで行き、できれば家に上がり、その人が動かないでいいような形で目の前で選ばせてあげている。それがとてもうれしいみたい」
過疎化、高齢化を背景に今後も増えることが予想される買い物弱者。地域の実情や支援を求める人に合った、よりスピーディーな対応が求められています。

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