1日大さじ2杯のお酢で驚異の健康効果が! 高血圧、糖尿病を劇的予防、飲むだけで運動と同じ効果?

酢イメージ

 高血圧、肥満、糖尿病、脂質異常症……。中年を過ぎれば誰もが直面しうる生活習慣病を、1日たった大さじ2杯の調味料で改善できたなら。そんな夢のような“万能薬”は、私たちの身近なところにあった。誰もが知っている「お酢」の知られざる実力に迫る。【多山賢二/広島修道大学元教授】

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お酢を生かした料理は?

〈お酢は体に良い――。

 これを聞いて驚く人はまずいまい。古来、さまざまな料理に使われてきた「お酢」が体に良いのは何となく理解ができる。

 だが、「なぜ体に良いのか」「体のどこにどう効くのか」と問われれば、即答できる人は少ないのではないか。

 しょせんは民間療法――。そんな声すら聞こえてきそうな「お酢」だが、果たしてその実力は折り紙付きであった。

 科学的に裏付けられた“最強の調味料”の効能について、広島修道大学元教授の多山賢二氏に解説をお願いした。〉

穀物酢でも十分?

黒酢

鹿児島県霧島市福山町にある黒酢の壺畑(他の写真を見る)

 お酢の歴史は非常に古く、その起源は紀元前5000年ごろまで遡ることができるといわれています。でも“健康食品としてのお酢”の研究が進んだのは、せいぜいここ数十年のこと。1980年代に鹿児島の黒酢にスポットライトが当たったのが始まりでした。90年代後半からは人を対象にした臨床試験も行われるようになり、今やお酢は“科学的根拠のある健康食品”として広く効果が認められているのです。

 最初に一つ種明かしをしておくと、お酢には穀物酢、米酢、リンゴ酢、黒酢などいろいろな種類がありますが、実は健康への効果という点ではほとんど違いはありません。これからご紹介するさまざまな機能も、すべての食酢に共通する主成分「酢酸」がもたらすもの。一時期の「黒酢ブーム」によって黒酢が一番健康に良さそうだと思っている人も多いかもしれませんが、比較的安い穀物酢でも得られる効果は変わらない。だからとても経済的なんです。

2週間お酢を飲み続けると、短時間で血圧を下げられるように

〈スーパーに行けば500ミリリットル入りが150円程度で手に入る穀物酢。そんな庶民派調味料が力を発揮する機能の一つが「高血圧」予防だ。〉

 これまでの研究で「酢酸」には、アデノシンという物質を生み出して血管を拡げる働きと、高血圧の原因の一つとなるホルモン系の活動を抑制する働きがあることが分かっています。

 実際、2003年に血圧が高めの男女64名を二つのグループに分け、こんな実験を行ったことがありました。一方のグループにはお酢15ミリリットルを含む飲料を、他方にはお酢を含まない飲料を10週間、毎朝飲んでもらうのです。結果は、被験者のうちお酢を含む飲料を飲んでもらったグループの約7割に血圧の低下がみられました。平均低下率は最高血圧が6.5%で最低血圧は8.0%。お酢を飲み始める前の血圧が高い人ほど大きく低下し、いずれの人も最高血圧が120~130mmHgと健康的な血圧まで下がると、それ以上は下がりませんでした。

 さらに別の研究によって、このお酢の降圧作用には“急性の効果”と“慢性の効果”があることも分かっています。

 例えば2週間程度お酢15ミリリットルを含む飲料を摂取し続けた人だと、飲んだ後、2時間程度という短時間で血圧が下がる“急性の効果”が確認できました。これを応用すれば、血圧が上昇しやすい時間帯を狙い撃ちしてお酢を飲むこともできます。例えば、夜中に血圧が高くなりやすい人は就寝前に、午前中に血圧が上昇してしまう人は起床後すぐにお酢を飲めば、ピーク時の血圧を下げる効果が得られるのです。

服薬を中止してお酢に切り替えると…

 ただ、この“急性の効果”が続くのは4時間程度といわれています。もし恒常的に血圧を下げるような“慢性の効果”を期待するのであれば、朝昼晩いつでもいいので4カ月程度お酢を飲み続けることが必要です。当初はお酢の効果がみられなかったという高血圧の人が15週間毎日お酢を飲み続けたところ、少しずつ血圧が低下したというデータもありますから。

 これらは実験の便宜上、お酢を飲む形式で検証が行われていますが、お酢を料理から摂取するのでも問題はないと考えられます。実際、昨年、鹿児島大学の研究グループが発表した論文では「酢の物」を食べている男性は食べない男性に比べて血圧が改善される傾向にあることが報告されています。

 お酢と高血圧予防の関係についての研究には、この他にも驚くべきものがあります。

 02年に、当時68歳で高血圧患者でもあった医師が自らの責任で服薬を中止し、食酢15ミリリットルを1日1回、起床時に飲用するという生活を続けたところ、血圧が有意に低下。お酢が降圧剤と同様の働きをしたというのです。

 さらに、お酢に加えて血管を拡張させるカルシウム拮抗剤を半量併用した場合には、同じ薬剤を全量服用したときと同等の降圧効果が得られたそうです。

 この実験は被験者が1名だけという特殊なものですから、結果が全員に当てはまるわけではありません。従って現在投薬治療をされている方が、自己判断で中止することはやめていただきたい。ただし、少なくとも予防という観点では、お酢は高血圧対策に大きな効果を発揮してくれるといえるでしょう。

お酢を飲むと、運動と同じ反応が?

〈インパクトある機能は高血圧予防だけにとどまらない。「肥満」や「糖尿病」「脂質異常症」の予防・改善という観点からもお酢は有効なのだという。多山氏が続ける。〉

「BMIが25以上」と定義される肥満は、日本人男性の約3割、女性の約2割を占めるといわれ、予備軍も含めれば実に多くの人が生活習慣を改善する必要に迫られていると思います。

 肥満を防ぐためには一に食生活の改善、二に適度な運動が重要だと思われますが、実はお酢を摂取すると、この「運動」と同じ反応が体の中で起きることが分かっているのです。

多山賢二

多山賢二教授(他の写真を見る)

カギを握るのは「酢酸」

 カギを握るのは、やはりお酢に含まれる「酢酸」でした。酢酸には体内でエネルギー源として利用されるのと同時に、AMPキナーゼという酵素を活性化させる働きがあることが知られています。この酵素の活性化によって、肝臓や筋肉の細胞の中で糖分や脂肪の燃焼が促進され、体は運動している時と同じような状態になるのです。

 また、酢酸が血中に移動すると、酢酸から脂肪細胞に信号が送られることも分かっています。この信号を受けた脂肪細胞はグルコース(ブドウ糖)や脂肪の取り込みを抑制する。これにより脂肪細胞が大きくなるのを防いでくれるというわけです。

 高血圧のときと同じく、肥満改善についても人を対象とした実験が行われていますのでご紹介しましょう。

 09年、BMIが平均27程度の肥満者175名を、1日あたり15ミリリットルのお酢を含む飲料を飲むグループ、30ミリリットルのお酢を含む飲料を飲むグループ、お酢を含まない飲料を飲むグループに分けて、12週間にわたり検証したのです。

骨粗鬆症や疲労回復にも

 結果は、お酢を含む飲料を飲んだ二つのグループは、お酢を含まない飲料を飲んだグループと比べて、体重・内臓脂肪面積・BMI・ウエスト・血清中性脂肪値がいずれも低下していました。しかも体重については毎日30ミリリットルのお酢を摂取したグループで平均約2キロ、15ミリリットルのグループで1.2キロの減少と、お酢を多く飲んだ方が高い効果が認められたのです。脂肪面積の減少という点でも同様の傾向が見られ、より多くのお酢を飲むことで肥満予防の効果が期待できることが科学的に裏付けられた格好です。

 ただ、体重の減少幅には個人差がありますし、検証結果もあくまで肥満の人を対象にしたもの。従って、健康体の人が単にダイエット目的で大量のお酢を飲んでも、期待するような効果は得られないのではないかと思います。それにお酢には食欲を増進させる効果もありますから、その点も注意した方がいいでしょう。肥満予防のためにお酢を使って、かえって食事量が増えてしまった、では元も子もありませんからね。

 さて、さきほど酢酸はAMPキナーゼを活性化させるという話をしましたが、これにより改善されるのは肥満だけではありません。AMPキナーゼが活性化すると、空腹時血糖の低下や食後の血糖値上昇の抑制につながり、糖尿病を予防することが期待できるのです。また、コレステロールの合成も抑制されることから、脂質異常症の予防にも貢献してくれます。

 糖尿病対策としては、最近の論文でも、1日20ミリリットルの食酢を8週間飲み続けたところ空腹時血糖が有意に低下したという結果が報告されていました。

 この他、お酢には体内でカルシウムの吸収や骨形成を促進する働きがあることが分かっており、毎日一定量を摂取することで骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防にも有効だと考えられます。

 また、お酢は体内の重要なエネルギー源であるグリコーゲンを急速補充する効果ももっているため、疲労回復も助けてくれる。スポーツや仕事、勉強などの合間にお酢を糖と一緒に取ることで、減少したグリコーゲンが早く回復し、再びパフォーマンスを向上させることができるのです。

〈生活習慣病だけでなくカルシウム摂取や疲労回復にも力を発揮するお酢。食品としては十分すぎる健康効果だが、気になるのは必要な摂取量や摂取方法である。〉

 これまでに紹介した健康効果を得たいのであれば、1日あたり1500ミリグラム程度の酢酸を継続して摂取する必要があるでしょう。これは市販のリンゴ酢であれば30ミリリットル程度、穀物酢であれば40ミリリットル程度で摂取できる分量になります。

 お酢が健康食品として意義深いのは、このように大さじ2杯程度という同一の分量で高血圧から肥満、糖尿病、脂質異常症といった異なる疾患の予防・改善効果が得られるという点にあります。ただ、大さじ2杯程度といっても、そのまま摂取するのは酸味が強すぎて到底無理。半量の15ミリリットルをジュースなど他の飲料に混ぜて、残り半分を料理から、というのが現実的です。料理に使用するのは穀物酢で構いませんが、他の飲料に混ぜる場合は香りが良いリンゴ酢が飲みやすいと思います。

組み合わせる飲料は?

 お酢と組み合わせる飲料に特に制限はありませんが、ジュースやスポーツドリンク、飲むヨーグルトなどに混ぜると飲みやすいでしょう。甘味や苦味にはお酢の酸味を抑制する作用があり、例えばコップ1杯(200ミリリットル程度)の飲料に7.5ミリリットルのお酢を混ぜる程度では酸っぱさはさほど感じません。これを朝と夜に飲めば合計15ミリリットルのお酢を摂取することができます。

 ジュースと混ぜるのであれば、グレープフルーツなど柑橘系の果汁との組み合わせが特におすすめ。柑橘系の酸っぱさはクエン酸に由来するのですが、クエン酸にも酢酸の酸味を弱める作用があるのです。グレープフルーツジュースには甘味や苦味もありますから、お酢の酸味はほとんどかき消され、むしろ味が濃く感じられておいしさが増すんです。

 それからヨーグルトなどに含まれる乳酸も酢酸の酸味を抑制するため、飲むヨーグルトやカルピスに混ぜるのもいい。夏場であればポカリスエットなどのスポーツドリンクに混ぜて飲むのもおすすめです。もちろん、お酢を水で割って蜂蜜を加えるなどお手製のお酢ドリンクにして飲むのもいいでしょう。

 近年は各メーカーがお酢を飲みやすく加工した“飲用酢”を販売していますから、経済的に余裕があるならそれを利用するのも一つです。注意点は、商品によって含まれる酢酸の量が大きく異なること。分析したところ、飲みやすいストレートタイプだと1日に400~800ミリリットル飲まないと、お酢15ミリリットル分を摂取できないものもありました。お酢の含有量などの表示をよく見る必要があり、表示がない商品はメーカーに問い合わせてみてもいいでしょう。

酢の物、手羽先

酢酸は加熱の影響を受けない

 お酢のメーカーなどは、1日の摂取量の目安を15ミリリットルとしているところも多く、慣れるまでは朝晩のお酢ドリンクだけでも問題ありません。でも、より確実な効果を得たいとか、効果を早く実感したいという人は残り15ミリリットルを料理から摂取してみて下さい。

 酢酸は加熱の影響を受けないため、火を通しても分解されたりすることはなく、その点でお酢は使いやすい調味料といえます。ただ、水と同じように蒸発するため、摂取量はその分を差し引いて考える必要があります。また、酢の物や酢豚などで調味液やタレを飲み干す人はあまりいないでしょうから、料理に使う場合、全量が体内に入るわけではないことにも留意しておかなければなりません。実際、ある研究では、酢の物に使われたお酢は3~4割が残されることが分かっています。

減塩効果も

 また、お酢には酸味を加えること以外にも、さまざまな調理上の効果があります。従って、細かいことは考えずに積極的にお酢を使ってみるのもいいでしょう。お酢の殺菌効果などは有名ですが、それだけでなく食材のカルシウムを溶出しやすくしたり、塩味を際立たせることによる減塩効果も期待できたりするのです。

 さらにお酢は取りすぎることによる健康被害がほとんどないことも分かっています。多量のお酢を希釈せずに飲用すると胃の粘膜が損傷しますが、そもそも多量のお酢を一気飲みできる人はいないので心配する必要はありません。むしろ薄めた適量のお酢は、胃の粘膜を刺激することでアルコールなど他の刺激物から胃を保護するケースがあるくらいです。

 身近で安価で、機能的。それでいて安全性も担保されている。そんな良いこと尽くめの調味料ですから、是非、皆さんも自分に合った“お酢ライフ”を試してみてはいかがでしょうか。

多山賢二(たやまけんじ)
広島修道大学元教授。1980年、山口大学大学院農学研究科修士課程を修了後、93年に東京大学で博士号取得。昨年、広島修道大学健康科学部教授を退任し、現在は県立広島大学などで非常勤講師を務める。酢酸菌やお酢の健康機能の研究に40年以上従事し、自身も約25年にわたってお酢の摂取を続けている。

週刊新潮 2023年2月16日号掲載

特別読物「実験で判明『高血圧』『糖尿病』『肥満』を劇的予防 “万能薬”『お酢』に科学的根拠」より

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