なぜ九州新幹線は東京へ行かないのか あれば便利そうな直通便

2022.06.09

児山 計(鉄道ライター)

東京駅から鹿児島中央駅までつながっている新幹線の線路。しかし運転系統は東京~博多間と新大阪~鹿児島中央間で分かれており、東京~鹿児島中央間を乗り換えなしで移動することはできません。直通列車の可能性はないのでしょうか。

鹿児島中央行き「のぞみ」 所要時間は…?

 東海道・山陽新幹線の速達列車「のぞみ」は、東京~博多間1069.1kmを約5時間で結んでいます。新幹線の線路は博多駅から先も鹿児島中央駅までつながっていますが、東京駅からの列車はすべて博多駅止まりとなり、逆に九州新幹線と山陽新幹線を直通する「みずほ」「さくら」は新大阪駅までしか運転されません。

 せっかく線路がつながっているのだから、東京発鹿児島中央行きの列車があっても良さそうなものですが、現状ではそういった列車が設定されるという話はありません。なぜでしょうか。

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熊本総合車両所で待機するJR九州の新幹線電車たち。現段階では、営業運転でJR東海への乗り入れは行われていない(2012年9月、児山 計撮影)。

 現在、東京~博多間は「のぞみ」で約5時間、博多~鹿児島中央間が「みずほ」で約1時間20分ですから、直通列車があれば6時間半以内で東京~鹿児島中央間を結べそうです。東京~熊本間ならば5時間半ほどでしょうか。

 筆者(児山 計:鉄道ライター)は2012年9月に熊本~新大阪間を「みずほ」、新大阪~東京を「のぞみ」と乗り継いで移動したことがありますが、新大阪駅での乗り継ぎを入れても所要時間は5時間半。個人的には移動手段として「あり」だと感じました。

 気になる疲れ具合ですが、「みずほ」に使われるN700系電車7000番台の普通車指定席は横4列であるばかりでなく、シートピッチを除けばグリーン車に匹敵する座席であり、新大阪駅までの3時間3分は実に快適に過ごせました。新大阪からの「のぞみ」N700系も座席に関していえば、体形に沿って座面がしっかり保持してくれる構造ゆえ思いのほか疲労度合いは小さく、東京駅に着いたときは「意外と早かったな」という感想。新大阪駅での乗り換えで、気持ちをリセットできたせいもあるかもしれません。

対鹿児島は航空機が圧倒的

 とはいえ、東京~博多間における2020年度の新幹線のシェアは、福岡空港の立地の良さもあってわずか8.3%。以遠となるとさらに少なくなるでしょう。航空機の羽田~鹿児島便は通常期でも1時間に2~3便、1日20便程度が運航されており、所要時間は1時間50分ほど。鹿児島空港および羽田空港へのアクセス時間を考慮しても4時間かかりません。新幹線と航空機で2時間半も差があると、さすがに東京~鹿児島中央間を通して乗ろうという人はあまりいないでしょう。

 しかし、新幹線の場合は東京~鹿児島中央間の利用ばかりではなく、たとえば名古屋~熊本間といった途中駅間の需要も期待できます。名古屋~熊本間であれば4時間10分程度ですので、鉄道の優位性を十分発揮できそうです。

 そういった中間駅需要を取り込みつつ、列車自体は東京~鹿児島中央間をロングランする――そんな列車は設定できないものでしょうか。ただ、航空機との競合を度外視しても、実現にはいくつかの課題を克服する必要があります。

 まず前提として、現状の設備では東海道新幹線の16両編成は、九州新幹線に乗り入れることができません。これは九州新幹線のホーム有効長が博多駅を除いて8両分しかなく、延長するにも10両分までしか考慮されていないためです。

 逆に九州新幹線のN700系7000・8000番台が東海道新幹線に乗り入れるなら、保安上の問題はありません。わずかな区間ですが、現に新大阪駅から鳥飼車両基地(大阪府摂津市)まで東海道新幹線の線路を走行しています。

大掛かりな改修に見合う利用があるか

 ただし、東海道・山陽新幹線のN700系とは異なり、7000・8000番台には車体傾斜装置が搭載されておらず、半径2500mのカーブでは速度を落とさなくてはなりません。そのため東京~新大阪間を「のぞみ」と同じ所要時間で運転するのは難しいでしょう。さらに東海道新幹線は現在、車体傾斜装置付きN700系の性能に合わせた、毎時片道最大17本というダイヤを設定しています。この中に速度や設備の異なる列車を運行すると、ダイヤがより複雑化してトータルでのサービスダウンを招く恐れがあります。

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山陽・九州新幹線のN700系電車8000番台。車体傾斜装置を搭載していないので、東海道新幹線において「のぞみ」と同等の所要時間では走れない(2012年9月、児山 計撮影)。

 こういったダイヤの再作成や案内の変更、あるいはN700系のシステムに合わせた7000・8000番台の改修に見合うだけの利用があれば、JR各社も検討するかもしれませんが、現状では残念ながら難しいといわざるを得ません。

 とはいえ、かつては22時間以上かかった東京~鹿児島間の鉄道利用。現在はその3分の1以下の時間で到達可能です。鹿児島中央駅を夕方の17時18分に発てば、その日のうちに東京まで帰れるというのも、「ブルートレイン世代」の筆者には感動的ともいえる早さです。何せ1984(昭和59)年当時の寝台特急「はやぶさ」は、西鹿児島駅を12時20分に発車して、東京着は翌日の午前10時30分だったのですから。

【了】

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