運転手不足に高齢化、そしてコロナ不況…岐路に立つタクシー業界 「流しで乗せる客はほとんどいない」 廃業選ぶ事業者も

2022/06/09 08:36

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客待ちで並ぶタクシー。新型コロナウイルスの影響で乗客は減少している=6日、鹿児島市のJR鹿児島中央駅前

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 鹿児島県内でタクシー事業者の苦境が続いている。タクシー運転手や乗客数の減少傾向に、新型コロナウイルスによる需要減で拍車がかかった。中小規模の事業者で廃業するところも出ており、事業継続に危機感を抱く業界関係者らは人材確保や利用促進に向けた模索を続けている。
 「稼げない運転手ほど他の仕事に流れている」。鹿児島市のタクシー会社の運転手男性(73)は、コロナ下の状況を打ち明けた。会社からの補助金も、各運転手の売り上げによって差があり、1日千円程度の人もいた。十分な支給がない一部の人は会社を去っていったという。
 ■60歳以上が7割超
 県内ではタクシー運転手の減少が急激に進む。県タクシー協会によると、3月末の運転者数は2704人。コロナ前の2019年3月末から3年で、2割近い636人が減った。今年4月末の平均年齢は64.4歳、60歳以上が75%と高齢化も進んでいる。
 約220台を所有する市丸グループの鶴丸交通(鹿児島市)では、コロナ下の2年で、年齢や病気を理由に運転手が1割減り、220人ほどになった。新たな採用も思うように進まず、タクシー事業部の西原正志統括部長は「車を遊ばせる時間を少なくするため、本来は1台当たり2~3人で回したいが、1人1台の状況になっている」と話す。
 ■夜は戻りが鈍く
 運転手と同様、減り続けているのが乗客だ。約10台を所有する同市の会社の担当者は、朝・昼は通院など一定の客数が確保できているとしつつ、「流しで乗せる客はほとんどいない。夜の天文館も戻っていない」と厳しさを訴える。
 県タクシー協会のまとめで、21年度の輸送人員は833万人。19年度の1343万人から、実に4割近く落ち込んだ。各事業者の売り上げも、軒並み3~4割落ちているという。
 鹿児島運輸支局によると、県内では5月末までに、コロナに起因する売り上げ減少や運転手不足を理由に5事業者が事業廃止を届け出た。同支局の担当者は「生活パターンも変わり、コロナ前の需要には戻らない。事業継続が難しくなる事業者は今後も出てくるかもしれない」。
 県タクシー協会の山口俊則専務理事は「1社で地域をカバーしている事業者に廃止の動きがあれば、影響はより大きい」と危惧する。
 ■「準特定地域」に
 川薩と鹿屋の交通圏が21年10月、タクシーの供給過剰のおそれがある「準特定地域」に指定された。これまで鹿児島市など台数が比較的多い地域が指定されているが、大幅な需要減で期せずして“競争激化”の形となった。新規参入が許可制などに変更されている。
 協会が対策として重視するのが、車両台数の適正化と同時に「需要の喚起と働き手の確保」。今月7日にあった協議会では「妊婦・子ども向け」「観光タクシーの普及」など、新たな需要につながる利用方法を提示し、それぞれ数値目標を定めた。
 需要喚起策は、準特定地域にかかわらず業界全体の喫緊の課題だ。県タクシー協会の下之角洋副会長(鹿児島第一交通社長)は「塾の送迎や買い物代行などタクシーの可能性はまだいくらでもある。『こういった使い方をしたい』という要望をどんどん出してほしい」と呼びかける。

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