ヤギの食害影響、尖閣・魚釣島の「裸地」が3割に急拡大…上陸して「駆除と固有種調査を」

沖縄県石垣市の尖閣諸島・魚釣島について、植物がなく土や岩がむき出しの「裸地」が陸地の約3分の1に上り、2019年までの1年間は急拡大したことが、富山大と酪農学園大(北海道)のチームによる衛星画像の分析でわかった。横畑泰志・富山大教授(動物生態学)は「繁殖した外来ヤギの駆除と固有種の上陸調査を急ぐべきだ」としている。(中村直人)

食害のスピード速まる

2019年に撮影された魚釣島の衛星写真。南側斜面の裸地が拡大している=横畑教授提供2019年に撮影された魚釣島の衛星写真。南側斜面の裸地が拡大している=横畑教授提供

魚釣島は面積約3・8平方キロ・メートルと同諸島最大の無人島。固有種のセンカクモグラやセンカクサワガニ、センカクカンアオイ(多年草)などは絶滅危惧種に指定されており、独自の生態系を育んできた。一方で、民間の政治団体が1978年に食料として持ち込んだヤギの「つがい」が繁殖。一時は約1000頭まで増えたとされ、植物の食害が問題化している。

横畑教授らは2000~19年、人工衛星で高解像度の島の画像を撮影。ヤギが持ち込まれる前の航空写真などと比較し、海岸の岩などを含めた裸地が占める割合の推移を追った。

1978年に国土地理院が撮影した魚釣島の航空写真。南側斜面も緑が豊富に茂っている=横畑教授提供1978年に国土地理院が撮影した魚釣島の航空写真。南側斜面も緑が豊富に茂っている=横畑教授提供

その結果、78年に18%だった裸地(海岸の岩場などを含む)は22年後の2000年に21%に増加。その後、拡大のスピードが速まり、06年に26%、18年には30%に。19年9月の衛星画像からは、南側の斜面を中心に裸地が急拡大し、33%(約1・3平方キロ・メートル)にまで広がった。わずか1年間で3ポイントの増加はそれまでのペースの約10倍に相当し、過去40年間で最も大きかった。

横畑教授によると、島の裸地は、毎年のように接近する台風などで木が倒れ、その後に生えた幼木や草をヤギが食い荒らすことで加速しているとみられる。裸地が増えると、落ち葉や枯れ草が減って土地がやせるため、モグラの餌であるミミズが少なくなり、植物以外の絶滅危惧種の保護にとっても打撃となる。

日本の領土なのに環境保全ままならず

魚釣島の上陸調査は1991年頃に大学が行って以来、島を賃借した国による「平穏かつ安定的な維持管理のため」として実施されていない。日本哺乳類学会や日本生態学会は2002~03年、環境相や外相に宛ててヤギの駆除を求める要望書を提出した。12年には尖閣諸島を国有化したが、中国側が領海侵入を繰り返すようになり、日本の領土でありながら環境保全がままならない状況が続く。

横畑教授は琉球大などと連携し、同島の河川水などに含まれる生物のDNAの断片を調べ、動植物の生息状況を確かめられないかを模索しているが、河口にボートで接近するか、ドローンなどで採取する必要があり、実現のハードルは高い。

地球温暖化に伴い、日本に接近する台風の強大化が懸念されており、横畑教授は「裸地の増え方のスピードが桁違いになっている。衛星からは見えない森林の内部や地中の状況は全く把握できていない」と指摘。その上で、「国際情勢や気候変動に 翻弄ほんろう された『現代のひずみ』の縮図のような島。さらに裸地が広がり、固有種が衰退している恐れもある。早急な対策が必要だ」と警鐘を鳴らしている。

「南側、ヤギすら生息できず」

魚釣島の裸地の拡大については、沖縄県石垣市が今年初めて実施した小型無人機「ドローン」による調査でも鮮明になった。

同市は2022年以降、尖閣諸島と周辺海域を船上から調査。2回目となった今年1月の調査では、目視とドローンによる空撮で魚釣島の様子を確認した。1年前と比べて南側斜面の岩肌の露出が進行したことが判明し、ヤギの食害の影響と指摘した。調査委託を受けた東海大の山田吉彦教授(海洋政策)は「南側は植物が減少し、ヤギすら生息できなくなっている」と生態系の崩壊を危惧する。

北側の斜面は植物に覆われていたが、冬の季節風の影響で接近できず、鮮明な画像が得られなかった。市は北側斜面の確認などのため、今夏~秋にも3回目の調査を予定している。

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