「漢字書けずばかにされた」「貧乏で高校行けず…」 学び直し支える夜間中学、全国で開校相次ぐ背景とは?

宮崎市教育委員会が開いた夜間中学の入学希望者説明会=10日、宮崎市

 宮崎市教育委員会が開いた夜間中学の入学希望者説明会=10日、宮崎市

 義務教育を十分に受けることができなかった、不登校経験者や外国籍の人を対象にした夜間中学校が、全国で相次ぎ開設されている。2025年4月予定の鹿児島に先駆けて、お隣の宮崎県には来春開校。この夏あった入学希望者説明会では、学びへの強い意欲が聞かれた。文部科学省で担当係長を務めた肝付町の上久保(うえくぼ)秀樹教育長(49)にも、制度の狙いや今後の課題を尋ねた。
 宮崎市が開設する「ひなた中学校」の3回目の説明会が開かれた10日、市教育情報研修センターには、若者から高齢者まで十数人が集まった。
 「書ける漢字が少なく、ばかにされたことがある」。市内の男性(59)は、夜間中学の開校をテレビで知り一念発起した。中学卒業後、定時制高校に入学。大阪で就職するため転校したが、職場でのいじめが原因で退職。学校も辞めて宮崎に帰った。「これを機に、読み書きをちゃんと学べたら」
 「もう一度、基本から勉強したい」と話す市内の女性(71)は中学卒業後、専門学校に進み、美容師免許を取得した。「幼い時に父が亡くなり、貧乏で高校に行けなかった」。30代半ばで離婚。働きながら2人の娘を育て上げた。人生を振り返る中で「足りないものばかり」と感じ「このままでは未練が残る」と学び直しを決意したという。
 宮崎市教委によると、説明会に参加した57人中、入学希望は29人。10代が7人と最も多く70代以上は4人で、外国籍は7人だった。企画総務課の河野広知(ひろちか)課長は「学びの場であるとともに人や社会とつながる場になれば」と話す。
 鹿児島県は9月議会で、夜間中学開校に向けた施設整備費などの補正予算を計上した。今後は設置準備委員会をつくり、カリキュラムなどを検討。校名募集やシンポジウムを通して、周知を図る。
 不登校の若者を支援するフリースクール「麻姑(まこ)の手村」の卓間光哉理事長は(66)は「学ぶ選択肢が増えるのはありがたい。集団生活に順応していけるよう、個別に対応してほしい」と期待を寄せた。
【夜間中学校】
 義務教育未修了者や形式上は卒業していても、さまざまな事情で十分に学ぶことができなった人が対象。2016年の教育機会確保法制定を機に、全都道府県や政令市に設置を求めている。鹿児島県は25年4月に鹿児島市の開陽高校内に設置する方針。
■対象者は「不登校」中心か
 肝付町の上久保秀樹教育長は就任前の文部科学省時代、夜間中学校設置に向けた手引きの作成などに携わった。国が開校を促す背景を「増え続ける不登校生や在留外国人に対し、義務教育を担保する手だてが必要になっていた」と明かす。
 夜間中学を検討するため、鹿児島県教育委員会と市町村教委は2022年にニーズを調査。入学希望は136人だった。「メインとなるのは不登校のまま、形式的に中学を卒業した人たちだろう。戦後の混乱期に中学生だった世代は、今は90歳を超える。在留外国人についても、鹿児島はある程度教育を受けている技能実習生が多く、対象は限られるのでは」と予想する。
 定時制高校と連携する必要性も指摘する。「卒業後は、就職や資格取得のために定時制高校へ進学を希望するケースが多い。通いやすさなどを考えると、県が定時制がある開陽高内に開校するメリットは大きい」と評価する。
 カリキュラムでは柔軟な対応が必要だという。義務教育で学ぶ社会的な適応力を、働きながら身に付けた人もいるなど個人差が考えられるからだ。「『中学校だから3年間』と限定せず一人一人の状況に合わせて、1年でも3年以上でもいい」と提言する。
 今後の課題として、離島や大隅など遠隔地の問題を挙げる。「市町村単体では一定の生徒数確保が難しいため、広域的な取り組みが必要。県民の誰もが通える夜間中学となってほしい」と語った。
【略歴】うえくぼ・ひでき 1973年、和歌山県出身。駿台法科専門学校卒業。同県職員を経て、2019年に文部科学省に転籍。21年4月から現職。

「一人一人に合わせた柔軟な対応が必要」と話す上久保秀樹・肝付町教育長=肝付町

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